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2021-02-16 『ヤクザと家族 The Family』@TOHOシネマズ日比谷

 久しぶりに映画館で映画を観たので、きちんと記録に残しておこうと思い元気なオタクブログじゃない記事を書きにきたよ。

 観たのは標記の通り『ヤクザと家族 The Family』。先述の通り昨年夏〜秋にかけてMIU404で大変なことになっていた人間のため、この作品の公開は非常に楽しみにしていた。それはもう。だって予告もプロモーションも何もかも絶対にすごい作品だ! という予感をビシバシ感じさせていたので。

 ……が、実際観に行くまでの踏ん切りがなかなかつかず、公開から2週間以上経ってようやく観に行った。

 この作品はたぶんすごく元気なときじゃないと観れないだろうな、という気持ちが日が経つにつれて育っていって、尻込みしていたのが大きい。このところ自分の精神状態がずっとアッパーに振れていたこともあり、落ち込むのが怖くて。ただ絶対に劇場で観たかったから、だんだん上映館が減っているのを見てようやくチケットを取り、このあいだの休みになんとか観に行けました。

 

 綾野剛演じる山本賢治というひとりの男とその『家族』の人生を、1999年〜2005年〜2019年という3つの時間を切り取って丁寧に描き出した作品。

 物語は山本が、たったひとり残った肉親であった父親を失うところから始まる。彼がそれまで置かれていた環境について、劇中であまり多く語られはしないが、すでに劣悪だったことがシーンの端々から見て取れた。

 そもそも、作品全体に説明的な描写が少なく、すべてが淡々と進んでいく。説明らしい説明は時々挟み込まれる数年単位の時間経過のみ。まるでナレーションのないドキュメンタリーを観ているような気分で、私たち観客は山本が辿った人生を目で追う。

 ヤクザというものは得てしてひどく暴力的な世界観で描かれるか、あるいは一種のロマンチシズムを伴って描かれていることが多いイメージだったけど、この作品では職業としてのヤクザというものが描かれているような気がする。よく恋愛作品で『好きになった人がたまたま〇〇だった』みたいなのがあるが、それでいくとこの作品は『家族にしてくれた人がたまたまヤクザだったから自分もヤクザになった』という感じ。

 対抗勢力である侠葉会や悪徳刑事である大迫(岩松了)はイメージ通りのヤクザモノの登場人物だった分、自分たちなりに清廉であろうとする柴咲組とのコントラストが際立っていたように思う。もちろん劇中で描写されていないだけで、山本たちも怖いこといっぱいしてただろうけども。ヤクザだし。

 コントラストでいうと、1999年〜2005年にかけての華やかさと、2019年のあまりにも寂寥に満ち満ちた柴咲組の姿も凄かった。ヤクザとは思えないようなアットホームな家に住まう侠葉会の加藤(豊原功補)のすがたと、時代の波に飲まれて削り取られてしまった残りカスのような柴咲組の面々の差に胸が苦しくてたまらなくなる。加藤すら時代に振り落とされそうになる中、飄々とその危ういラインを『ヤクザ』ではない磯村勇斗演じる翼が渡っていくのも印象的だった。身軽で頭もキレる新時代の人間である翼は、けれどもかつて山本に憧憬を隠さず、ギラつかせていた目をキラキラさせて子どものように彼を見る。その純粋さがやっぱり危ないし、切ない。

 山本が終盤、由香(尾野真千子)への留守番電話で初めて自分の気持ちをはっきりと言葉にする。それは由香に対して語られた言葉ではあったけれど、彼の人生すべてを物語るような独白だった。これを残された彼女は一体どんな気持ちで聞いただろう、ということばかり考えてしまう。出会ったとき彼女が何気なく与えた優しさが、山本にはどれだけ暖かなものだったのだろう。

 それと特筆すべきは舘ひろし演じる柴咲の、あまりの懐の深さ。こんなんみんな好きになっちゃうよ、と思わせる魅力。2019年まで残った組員たちはみんなあの人に心底惚れ込んでいたんだろうな。彼が魅力的であればあるほど、老いや病に侵されているのを見るのは辛かった。それを見ていられなくてやめた組員もいるんじゃないだろうか。

 正直褒めるところしかなくて全然文章に出来ないや。とても書ききれない。キャスト全員褒めたいもの。私が一番好きなのは北村有起哉演じる中村です。あまりにも愚直で、人間臭くて、かっこ悪くて、優しい男。市原隼人の細野も良かった。柴咲組の人びとはみんな、この世界で生きていくには不器用すぎたし情け深すぎた。

 最初に書いたとおり観たらズーンて落ち込むかと思っていたけど、結構平気だったのは自分でも意外。ラストシーンの終わり方が好きだったのもある。あと劇中は泣いている暇がなかったというのもあるかも。ただ、エンドロールでmillennium paradeのFAMILIAが流れている間はずっと、静かに涙があふれて止められず、帰り鏡を見たらマスクがびちょびちょになってしまっていた。

 ただの任侠ものだと思っている人にはその印象を取っ払って是非見に行って欲しいなあ。これはひとりの男と彼の愛についてのドキュメントだから。

 

 そして観終わったあとにかならずFAMILIAのMVを観て、『ヤクザと家族 The Family』を完結させて欲しい。

youtu.be

 これを観て初めてこの映画は終わると思うので。

 MVの煙が劇中の、海のなかの血とオーバーラップする。

 私はひとりでいることが好きだから、あえてひとりでいることを選んでいる人間だけども、この作品を観終わってやっぱり、人は誰かを愛さずに生きていくことなんて出来やしないんだとものすごい綺麗事をずっと考えていた。

 

 2021年一発目の作品がこれで良かったな。これからもたまに思い出を取り出して、涙ぐんでしまうようなたいせつな一作になった。

www.yakuzatokazoku.com