鉄は熱いうちに打て!

ここはエモーショナルの墓場

2022-04-13 『やがて海へと届く』@TOHOシネマズシャンテ

 友達が見たがっていたのを見て、私も見たい! とずっと楽しみにしていた作品。

 ある女性ふたりの、思慕や憧憬を孕んだ強い連帯と、その先にあった喪失の物語。

 

 以下、結構ネタバレします。

 ホテルのレストランでチーフマネージャーをしている真奈(岸井ゆきの)は、ある日旧知の遠野(杉野遥亮)から「形見分けをしたい」と申し出を受ける。

 『形見』とは、真奈の親友であり、遠野の恋人・すみれ(浜辺美波)の持ち物であった。居なくなってしまった彼女の不在をまだ到底受け入れられていない真奈は……というところからストーリーが始まる。

 はじめ、ストーリーは真奈とすみれが出会い、真奈から見たすみれがどんな女性だったかを追っていく。内気で引っ込み思案でどこか地味な真奈とは対照的に、サバサバしていて自由で、誰から見ても魅力的なすみれ。ある日、真奈の家にすみれが転がり込むような形で同居人となったふたり。そうして、真奈にとってただの友達なんかではすまないくらい特別で、かけがえのない存在になっていたすみれは、しかし真奈を置いて恋人である遠野と一緒に暮らし始めてしまった。たぶんだけど、真奈はそのとき遠野に対してめちゃくちゃ嫉妬していたし、自分ではなく遠野を選んだすみれに怒ってすらいたかもしれない。映画では深く描かれてはいないのと、原作未読なので想像することしか出来ないけど、このときの別れが彼女たちの心の距離をそれまでよりぐっと引き離したように感じた。

 とはいえ連絡を絶っていたとかではなく、それからも時々会ったりはしていたふたりは、2011年3月11日を境に会えなくなってしまった。すみれが旅先で震災に巻き込まれ、そのまま行方不明になってしまったためだ。

 真奈はすみれが生きているかもしれないという気持ちを諦めきれないまま5年を過ごした。劇中でもうひとつの別れがあり、ぐらぐら揺らぐ彼女を同僚が支えてくれてなんとか久しぶりに東北へ足を運ぶ。そこからは一時的に半分ドキュメンタリーみたいな演出で、この部分と冒頭と終盤のアニメーションでかなり好みが分かれてくるのかもしれないなと思う。より物語に現実味を帯びさせる意図があったのかもしれないが、個人的には少し唐突なようにも感じた。

 話が進んでいくうちに、すみれが真奈のことをどう思っていたのかが描かれる。自由でサバサバしているように見えたすみれは、冒頭で母親が語った通り本当は人見知りな女の子だったのかもしれない。勇気を出して真奈と友達になったあとは、きっと真奈がすみれを想う以上に、彼女のことを特別で大切な存在に位置付けていた。特別すぎて、ずっと一緒に居られないのが怖かったから先に手を離したのが切なすぎて、静かに泣いてしまった。

 細かい部分でん? というところはあったけど、真奈とすみれを演じた岸井ゆきの浜辺美波のお芝居が素晴らしかったのでそれでチケット代の元は取ったかなという感じ。今にも空気に溶けて消えてしまいそうな浜辺美波のあの雰囲気がすみれという役にとてもマッチしていたし、感情を抑えがちな真奈の心の揺れを見事に表現していた岸井ゆきのの表情と佇まいのお芝居は圧巻のひとことだった。百合に挟まる役どころ(いきなりめちゃくちゃ平たい言い方をすな)である遠野も、杉野遥亮の理知的な雰囲気がすごくハマっていたと思う。

 あとこれはすごく個人的な話なんだけど、亡くなった人の声を思い出そうとして留守録のメッセージを聞く、という行動を私もしたことがあって、あのシーンは他人事には思えなくて胸がより痛みました。肉声じゃなくて機械を通した声だから本当の声はもう聞けないんだなーって再確認させられるんですけど、それでも聞かずにはいられないんですよね。

 すみれを失ったことを受け入れてしまえば、自分の中で彼女を殺すことになる。でもずっと受け入れないまま、認めないままでいるのは苦しいし、無理なのも頭では解っていて、でもやっぱり遠野やすみれの母が彼女を過去にしていくのは許せない、そういう人間の矛盾した感情が冒頭の真奈の行動や態度の端々から強く感じられたのが、撮り方的にも岸井さんのお芝居的にもすごくすごく良かったなと思います。

 結構ぼんやりと好き嫌い分かれる作品かな。でも私は見てよかったです。